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複雑極まりない日本酒造り

■若い世代の酒蔵運営の秘訣
現在、おいしい酒を造っているとして評判となった地方の地酒の酒蔵も、若い経営者によって新しい技術や技法、さらには設備にお金をかけることで酒造りが変わってきています。
長年にわたって守り続けてきた味を大事にしつつも、若い世代ならではの合理的な考えで酒造りの効率をアップさせようという試みです。
長い年月をかけ、さらに手間暇もかけて造られることで構築されてきた酒蔵オリジナルの味わいはそのまま残しつつ、新しい手法を導入してもおいしさをしっかり再現しているところに、若いせだいならではの柔軟性と行動力を感じます。
今や一度は飲んでみたい日本酒として日本全国で有名になった酒造会社は多いものの、いくら機械化しようと合理化を図ろうと、すべて手作業で行っていた酒造りの根本的な大変さは、そのまま残しているのもまた特徴です。
相反する酒造りのようでいて、根本にはこれまで代々受け継いできた先人たちの知恵や苦労を忘れないことにあるからこそ、全国で評判となり、入手困難になるほどの人気の酒が登場したと言えます。

■すべては手作業だった時代の仕込みの苦労
現在のようにあらゆるものが機械化され、コンピューター制御される以前は、多くのことが手作業によって行われていました。
コンピューター関連でできることをデジタルという言葉で表現することから、そうでないものはアナログということになり、酒造りはアナログの典型です。
ただ、こと酒造りに関して言うなら、アナログの方がより良い酒を造れることがしばしばあります。
日本酒はまず米を蒸し、蒸した米に麹菌を繁殖させ、麹を造ることから始まります。
麹菌は米のデンプンを糖化させ、酵母の中で育った酵素がこの糖分をアルコールにしていくのです。
バランスを見ながら、三段階に分けて麹に蒸米、そして水を投入していくため、日本酒造りにおける基本は三段仕込みと言っていいでしょう。
もちろんすべては手作業であり、試行錯誤しながら確立された技法です。
アナログ時代には、お得意さんを満足させつつ利益を上げるためにはこれまでの造り方を守り抜くことが大事であり、新しい造り方にチャレンジするのは非常に困難だったと考えられます。

■菊姫合資会社が造り上げた業界初の山廃仕込み
1978年（昭和53年）、菊姫合資会社では日本酒業界で初となる山廃仕込みによる純米酒を造り上げ、販売しました。
酒造りには酵母を育てるための酒母（しゅぼ）と呼ばれる大事な工程がありますが、この酒母の造り方の1つが山廃です。
酒母とは、おいしい日本酒造りに欠かせない良質の酵母を大量に増殖させるために行う工程で、山廃仕込みはこの酵母と乳酸菌が共生しながら育つことで、独特の味わいが生まれます。
山廃仕込みの酒は酸味の中に濃厚さが感じられるという特徴から、しばしば剛健とか男酒といった表現がされる仕込み方法です。
昨今、軽やかな口当たりのフルーティーな日本酒が人気ですが、山廃仕込みは重みがあり、ずっしりとした口当たりになるため、酒を飲んでいるという感覚が欲しいという人に好まれる日本酒造りの製法と言えます。
山廃仕込みでの酒造りはかなり古くから行われていましたが、山廃仕込みによって純米酒を造り上げたのは菊姫合資会社が初めてだったことから、画期的と称賛されたのです。

■日本酒業界初という快挙
菊姫 純米酒 山廃純米は日本酒業界で初の、山廃仕込みという表示をして発売された純米酒です。
手間暇がかかる山廃という造り方によって誕生した菊姫の山廃純米は、非常に濃淳で飲み応えのある、いかにも山廃という仕上がりになっています。
菊姫の造る純米酒は、全体的に旨口のぽってりとした上品な味わいから女酒に分類されるのですが、山廃仕込みによって同じ純米酒なのにまったく味わいの異なる、剛健な口当たりの男酒に変わってしまうのですから不思議です。
そんな味わいの違いを楽しむべく、山廃純米とともに菊姫の女酒の純米酒を飲み比べてみるのも、また一興と言えるでしょう。